概要
元々,連続で投稿するつもりはなかったのだが,急な話題がでてきたため,意図しない連投となった。
2020-06-10 Wedに禁止改定が発表されたので感想を記す。
今回の禁止改定は事前予告が一切なく,急遽行われたものだ。
改定
肝心の禁止改定の内容は以下の通りだ。
2020年6月10日Invoke Prejudice Cleanse Stone-Throwing Devils プラデッシュの漂泊民/Pradesh Gypsies Jihad Imprison 十字軍/Crusade
以上のカード画像は、以下の声明文に置き換わります。
「人種差別を想起させる描写や文言が含まれるカードにつきまして、私たちのデータベースからカード画像を削除いたしました。どのような形であれ人種差別的要素は受け入れがたく、私たちのゲームはもちろん、いかなる場所においても存在が許されるものではありません。」
加えて、上記のカードはすべての認定イベントにおいて使用禁止となります。
今回の禁止改定はここ2020-05-25に発生したアメリカでの黒人殺害事件の影響を受けたもののようだ。
背景
海外での事件であり,詳細を把握していなかったので,「白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み | 文春オンライン」を見て全容を確認した。
2020-05-25にアメリカミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人 (黒人) のジョージ・フロイドが白人警官に首を絞められて殺害されたようだ。その翌日,この事件を受けて抗議デモが現地で起き,これが全米に広がったというのが経緯のようだ。
ただ,上記記事ではこの程度の事実しか書かれておらず,肝心の殺害の動機や背景が書かれていない。大学院での研究経験から,この手のニュースの一次情報源の特定は骨の折れる作業とわかっているので,深入りはせず,代わりに過剰な反応も避ける。
感想
事件についてはおいておくとして,肝心の禁止改定の内容だが,この事件を受けてMTGの初期に収録されていた人種差別を連想させるようなカードを,公式のDBから画像を削除し,全フォーマット (主にレガシー,ヴィンテージ,統率者) で禁止という内容だった。
禁止されたカードは基本的に使われていないようなカードがメインなのだが,白ウィニー使いとして見逃せないカードが禁止対象となっていた。
それは,《十字軍/Crusade》だ!
MTG黎明期の白にとって,《神の怒り/Wrath of God》と《ハルマゲドン/Armageddon》と共に三大レアカードとして,白ウィニーにとって必須カードとしてトーナメントで大きく活躍したカードだ。
白ウィニーの歴史,ひいてはMTGの歴史にとって,欠かすことのできない代表的なカードだ。実際に,2009-07-17に基本セット2010で《清浄の名誉/Honor of the Pure》が収録されるまで,自分の初期のレガシーの白ウィニーで使っていた。
《十字軍/Crusade》+《セラの報復者/Serra Avenger》の組み合わせで,相手の《稲妻/Lightning Bolt》による除去を阻止したり,いわずもがな《幽体の行列/Spectral Procession》との組み合わせは強力で,多くの勝利をもたらしてくれた。
十字軍という世界史に載るような史実を元にしたカードとなっている。今回,人種差別に繋がるとして,禁止対象に含まれてしまった。
《十字軍/Crusade》が禁止されたというのは自分にとってインパクトが大きいのだが,《十字軍/Crusade》以外のカードについても,今回の禁止は到底納得できるものではない。
後になって,過去の歴史をなかったことになんてできない。今さら禁止しても意味がない。それどころが,今までのMTGの歴史そのものを否定することになりかねない。
そもそも,MTGには過去にも戦争を連想させるものや,グロいものなど,人種差別以外にも見方によっては危ない表現も含まれている。それに,アジアや日本を舞台にした神河ブロックだって存在する。
仮に今後,米中関係が悪化して戦争が起きそうな状況になったからといって,戦争を連想させるカード群を一斉に禁止にするのか? (貿易) 戦争相手が気に入らないからといって,神河ブロックをなかったことにするのか?
今回の禁止改定は表現の自由に関するものであり,今後の社会情勢を受けた禁止改定を示唆するものとなってしまった。
この点に関しては,Kudou_MTGさんの「人種差別的として7枚のカードを禁止にした件について」と同意見だ。
似たようなもので,直近で《虚空を招くもの/Void Beckoner》のゴジラシリーズ・カードの「死のコロナビーム、スペースゴジラ/Spacegodzilla, Death Corona」が問題のあるカード名として「虚空の侵略者、スペースゴジラ/Spacegodzilla, Void Invader」に変更された。
こちらも,元々の名前に悪気があったものでなく,文脈として適切だっただけに不憫だった。だが,こちらはカード名が変更されただけで禁止ではなく,むしろ初版のカードにプレミアがついた分,どちらかというとユーザーにとって利点があった。そのため,結果オーライで最終的に問題なかったと思っている。
ただ,今回は名前やイラストの変更ではなく,イラストのDBからの削除に加えて,カードの禁止という社会情勢や世論を受けた安易なルール変更となっている。もう少しやりようがあったのではないか?
例えば,2020-03-09の国際女性デーを記念した女性キャラクターの収録した「Secret Lair Drop Series: International Women’s Day 2020」が発売された。
これと同じように,過去のイラストを破棄する代わりに,シークレットレイアーで今回禁止対象となったカードの別イラスト版を販売して補填すればよかったのではないか?気に入らないものを抹消するのではなく,対策するにしてももう少し前向きな対策を考えてほしかった。
結論
今回急遽行われた禁止改定はMTGの歴史を否定する安易で愚かな内容だった。元々のカードたちには何の悪気もなく,それで問題が起きたわけでもない。実際に何年もトーナメントでも活躍してきた。それが,今頃になって目の上のたんこぶ扱いだ。
人種差別というのがそもそもよくないのだが,差別に対して別の差別で対応しても,それは解決になっていないのではないか?
今回の禁止改定はMTGの歴史の改変・改ざんを意図したものであり,今後の歴史改変・改ざん示唆するものとなり,将来におけるリスクを孕むことになり,非常に残念な禁止改定だった。
コメント
[…] 前回の突然の発表以来の約1年ぶりの禁止改定となる。 […]